「ここで古本屋さんをやりたいんです。」そう店主から相談を受けたのは6月でも35℃を超えるような暑い日でした。
現地調査に向かった先は世田谷区深沢の体育大学近くの半地下にある27㎡ほどの事務所用に改装してあるテナント物件でした。事務所用として使うことを想定しているため床はタイルカーペットが置かれ、半地下ということもあり天井も低めなその物件は、ここで何か個性豊かなお店を始めるには対象的な無機質な空間に思えました。
「古本の他にも雑貨や古着も置けたら良いなと思っていまして・・・」
そう話を聞き進め店主の熱量から個性的な古本店になることは容易に想像できたのですが、限りある予算内でその熱量を受け止めるインテリア空間をどのように実現するか悩みました。
そこで壁や床に予算を使うことを諦め、古本屋さんのアイデンティティである本棚を個性の強いものとなるようデザインし、家具のみでインテリア空間を作り上げるデザイン案をしたところ店主から快諾頂き、このプロジェクトがムクリと動きだしました。
インテリア空間を印象付ける家具は、店主の趣味趣向を受け止めるため、個性的でありながら商品を邪魔しないデザインのバランス感覚をが求められました。
そこで骨組みはパイプ鋼材とし、棚板や背板にラワン合板を採用、ジョイントには”くさび”で緊結する資材を採用することでシンプルでありながら力強いデザインの家具ができました。
全ての家具搬入後、無機質な空間は見る影もなく個性的でありながら、どんな商品でも受け止める包容力のある空間に変わっていました。
店主と話しているとこれからの新たな働き方を見ているような高揚感を感じます。ご自身が士業の本業を持ちながら週の半分お店に立ち、旅行を兼ねた出張先で気に入ったものを仕入れお店に並べる。
生業を生活に混ぜ合わせ、本業と間でどのようにしたら自分らしく生きることができるか、その形としてのお店作りに携わることができたことを幸福に感じています。
2025.8.25 持田麦