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「ガラス張りの美容室」は、なぜ入りにくいのか?「見えそうで見えない」境界線。

2026.02.19(Thu)

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目次

  1. 1. 弟(施主)との攻防:「もっとひらきたい!」
  2. 2. 解決策①:駐車場という「透明なカーテン」をデザインする
  3. 3. 解決策②:緑のフィルターと、柱の額縁効果
  4. 4. 結び:弟が名付けた「GLOW」の意味

美容室や理容室を探している時、中が見えない店は「入りにくい」と感じます。 でも逆に、全面ガラス張りで、カットされているお客さんが外から丸見えの店も、それはそれで「居心地が悪そう」だと感じませんか?

頭にタオルを巻かれ、無防備な姿で椅子に座る瞬間。 通行人と目が合う気まずさ。

「開放感は欲しい。でも、晒されたくはない。」

これは、店舗設計において永遠のテーマです。 今回ご紹介する「GLOW」は、理容師である実の弟からの依頼でした。 僕たちが目指したのは、この**「見る・見られる」のストレス**を建築の工夫だけで解決することでした。

1. 弟(施主)との攻防:「もっとひらきたい!」

施主である弟の最初の要望は、とにかく**「地域にひらいた店にしたい」**でした。 「近所の人が通りがかりに『あ、やってるな』とわかるようにしたい」 「閉鎖的な店にはしたくない」

経営者として、それは正しい直感です。 しかし、設計者である僕は、少し意地悪な質問をしました。 「じゃあ、自分が客としてその店に入った時、道路を歩く人と目が合っても平気?」

道路ギリギリに建物を建てて、大きなガラス窓をつければ、確かに「ひらいた店」にはなります。 でも、そこはお客様にとって「落ち着かない場所」になってしまう。

「ひらいているのに、守られている」 そんな矛盾した空間を作るために僕たちが採用したのが、**「バッファゾーン(緩衝帯)」**という考え方でした。

2. 解決策①:駐車場という「透明なカーテン」をデザインする

このプロジェクトでは、建物を道路からあえて大きく後ろに下げ(セットバックさせ)ました。 その手前のスペースは、来客用の「駐車場」です。

一般的に、店先の駐車場は「ただ車を置く場所」として無機質になりがちです。 しかし、この設計においては、この駐車場こそが**「街と店をつなぐクッション」**の役割を果たしています。

道路と店舗の間に、車1台分(約5〜6メートル)の物理的な距離があること。 たったこれだけの距離ですが、これがあるのとないのとでは、安心感が全く違います。

すぐ目の前(0距離)だと「監視されている」ように感じる視線も、数メートル離れるだけで「風景」の一部に変わります。 壁を作るのではなく、「距離」という透明なカーテンを一枚挟むこと。 これが、お客様の「見られるストレス」を解消する第一の仕掛けです。

3. 解決策②:緑のフィルターと、柱の額縁効果

しかし、ただ距離が遠いだけでは、お店としての魅力(賑わい)も伝わりづらくなってしまいます。 そこで、建物と駐車場の間に、2つの建築的な仕掛けを施しました。

【A. 植栽によるフィルター】 足元には、ベンチや看板ではなく、あえて密度の高い植栽を配置しました。 この「緑」があることで、道路からの視線はワンクッション置かれます。 中からは緑越しに街の風景を楽しめるけれど、外からの視線は緑に吸い込まれて気にならなくなる効果があります。

【B. 柱が作る「額縁効果」】 そしてもう一つ重要なのが、軒を支えるために外に出した**「連続する木の柱」**です。

ガラス一枚だけで外とつながっていると、人は自分が裸で外に立っているような心細さを感じます。 しかし、ガラスの手前に「しっかりとした柱」があることで、視覚的なリズムが生まれ、**「ここから先は室内ですよ」**という境界線が脳に認識されます。

これを建築では**「額縁効果」**とも呼びますが、 窓からの景色が柱によって切り取られることで、お客様は「守られた場所から外を眺めている」という落ち着きを得ることができるのです。

4. 結び:弟が名付けた「GLOW」の意味

完成した店を、弟は**「GLOW(輝き)」**と名付けました。 「お客様を輝かせたい」という想いと共に、この建築が生み出す夜の光景を気に入ってくれたからだと思っています。

夜になると、店内の明かりが、手前の**「駐車場(距離)」を超え、「植栽(緑)」を照らし、「柱(影)」**を落としながら、柔らかく街に届きます。

それは、中が丸見えの暴力的な明るさではなく、 行灯(あんどん)のように、人の気配だけを優しく伝える**「GLOW(輝き)」**。

「距離」と「層」をデザインすること。

それが、弟が求めた「開放感」と、お客様が求める「安心感」を両立させるための、僕なりの回答でした。
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