学習塾 いろはアカデミー






















学習塾 いろはアカデミー
2025年の夏、突然問い合わせフォームからメールが届き、その後すぐに電話がかかってきた。内容は一橋学園で学習塾を開業したいとのこと。数日後、現地で話を伺うことにした。
現れたのは若い青年だった。話を聞くと大学院に通いながら起業するという学生起業家で、すでに国分寺で店舗を持たずに小学生向けの学習塾を運営しているという。内容はSTEAM学習を基盤としつつ、体を動かしながら学ぶ対面型の英会話教室など、遊びと学びの境界を溶かすような教育をしている。STEAM学習は在籍している大学の研究室の専門分野であることが関係しているようだった。恥ずかしながらSTEAM学習という分野を知らなかった私だが、話を聞くうちに小学生にこそ必要な学習の形だと感じた。
「もっと地域に開きたいんです。生き生きと学習している子どもの様子が外から見えるようにしたい。」
学習塾というと外から中が見えず、クローズドなイメージがある。貝貫さんはその逆をいく、地域に開いた学習塾をつくりたいと言った。STEAM学習の先進性と、地域に開くということ。この二つのキーワードから空間と店舗のイメージを構築しようと考えた。
現場は1階のテナント物件で約50㎡。大きなガラスのファサードが通りに面しており、地域に開くという点では申し分のない条件だった。
学習塾の名前は「いろはアカデミー」。イメージカラーはグリーンということで、Canvaで作ったロゴイメージを見せてもらった。ここで一つの葛藤が生まれた。色々な学習塾のロゴや看板を調べると、やたらと緑の背景に白い文字のものが多い。大手進学塾のイメージが世間に根付いているからだろう。貝貫さんもその想起を利用したい意図があった。
しかし、貝貫さんから聞かされるSTEAM教育の先進性と、一般的な緑の看板の学習塾のイメージがあまりにも相違している。そのまま緑の看板を掲げれば、大手進学塾の印象に取り込まれてしまう。それは勿体ない。
同じ緑を使いながらも、見え方を変えられないか。そこで看板の素材にクリアグリーンのアクリルを提案した。緑でありながら透明で、光を透過する。学習塾のイメージを継承しつつ、既存のどの塾とも違う先進性を表現できるのではないかと考えた。3Dパースを見せながら貝貫さんを説得し、完成写真にあるような看板が実現した。
もう一つ考えたのは、看板の高さだった。看板は通常建物の上部に取り付けるので、大人の目線では目に入っても子どもの目線では視認しづらい。この塾に通うのは小学生だ。ファサードの正面に置ける、同じクリアグリーンのアクリルで制作したサインオブジェを合わせて提案した。「いろは」と「ABC」の文字が入ったアクリルの箱が、子どもの目線の高さに並んでいる。
室内はイメージカラーであるグリーン基調のタイルカーペットを敷き、予算の関係から壁と天井はスケルトンのまま見せることにした。コンクリートの壁、木毛セメント板の天井、むき出しの配管。それらを照らすように黒のスポットライトを設置し、あえて素の空間をつくった。家具はグリーンで統一しながら、空間をまとめていった。
竣工してしばらく経ったある日、撮影のために訪れると思いがけない光景があった。ファサードに置いたクリアグリーンのアクリルを透過した日光が、コンクリートの壁に緑色の光を落としていた。アクリルが光を透過して室内に色を映すことはある程度想定していたが、思った以上に美しい光だった。午後の陽が傾くにつれて、緑の光はゆっくりと壁を移動していく。設計で意図した部分と、意図を超えて生まれた部分が重なるとき、建築はようやく完成に近づくのだと思う。
貝貫さんはその後、freeeが発行する「起業時代」の表紙を飾った。大学院に通いながら起業した青年が、この場所を拠点に走り続けている。空間は器だと思う。中身が育っていけば、器もそれに応えるように表情を変えていく。この塾がこれからどんな風景を見せてくれるのか、それを見届けたいと思っている。
用途: 学習塾
竣工:2025年1月
設計:持田麦建築事務所
施工:持田麦建築事務所
