
27㎡の半地下で、古本屋を始める
世田谷区深沢、体育大学の近く。約27㎡の半地下テナントで古本屋を営むオーナーから相談を受けた。
本業は士業。普段そこで仕事をしながら、週の半分だけ店を開ける。そういう生き方をするための店をつくりたい、という話だった。
初夏の真夏日に現地で会い、既存の空間を見た。元事務所として使われていたその場所は、タイルカーペットの床に低い天井、無機質な箱だった。

壁と床を諦めて、本棚に全振りした
オーナーの最初の希望は、壁や床をイメージ通りに工事することだった。
ただ、総予算を聞いた時点で、それでは本棚や什器を用意する予算が残らないことがわかった。壁と床に予算を使えば、肝心の本を並べる場所が貧弱になる。
そこで提案を変えた。壁と床はそのまま残す。その代わり、本棚のデザインで空間全体の印象をつくる。家具だけでインテリアを成立させる方法だった。
予算は有限で、どこに使うかで空間は決まる。これは住宅でも店舗でも同じことだと思っている。

ビニールハウスの資材で本棚をつくる
骨組みにはパイプ鋼材、棚板と背板にはラワン合板、ジョイントにはビニールハウス用のくさび資材を使った。
くさび資材を使いたいというアイデアは最初からあった。この店のアイデンティティになる本棚をつくるために、既製品ではない素材の組み合わせが必要だった。ラフ過ぎず、冷た過ぎない。シンプルだけど力強い。そのバランスを目指した。
ただ、初めて使う材料には試作が必要だった。ちょうど直前に完成した自宅兼事務所にも本棚をつくる予定があったので、試作を兼ねてまず自分の本棚から手を動かした。素材の癖を掴んでから本番に臨む。初めての材料を扱うのは面白いが、スリリングでもある。

「どう生きたいか」から空間を逆算する
他社とも比較しているとのことで、設計と見積もりは1週間で仕上げた。
この仕事は店舗デザインではあるが、作業の9割は家具制作だった。壁や床を工事する代わりに、本棚と机を設計し、試作し、納品する。建築というよりもものづくりに近い仕事だったかもしれない。
ただ、やっていることの根は同じだと思う。店主がどう生きたいかを聞いて、それを空間に翻訳する。住宅でも店舗でも、設計の起点は変わらない。

小さな店舗でも、建築家に頼める
「建築家に頼む」というと大きな建物を想像されるかもしれない。でも実際には、27㎡のテナントでも、予算が限られていても、設計でできることはある。
むしろ小さい空間ほど、ひとつの判断が全体の印象を決める。何に予算を使い、何を諦めるか。その優先順位を一緒に考えるのが、設計の仕事だと思っている。
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古本店「トペ・コンヒーロ」
用途: 古本店 / 竣工: 2025年 / 面積: 約27㎡ / 所在地: 東京都世田谷区
設計・施工: 持田麦建築設計事務所
国分寺を拠点に、住宅・店舗の設計施工を行っています。
家づくり・店づくりの進め方は[こちら]をご覧ください。
